Bruce Springsteen, Greetings from Asbury Park, N.J. (1973)

greetings_from_asbury_park_nj.jpg 学生時代に、友人のお姉さんに「会社でもらったから」とチケットをいただき、友人と二人で東京ドームにライブを観に行った。ネットで調べたら1988年のヒューマン・ライツというイベントだった。多くのミュージシャンが出てきたが、もう誰一人覚えていない。ただトリがBruce Springsteenだったことだけは覚えている。2曲目のBorn in the USAに辟易して会場を出てしまったからだ。

 当時の自分にとっては拳をあげて聴衆をあおる(ようにみえた)コンサートはとてもロックには思えなかった。最初にSpringsteenを聞いたのは1980年のThe River。2枚組で曲がたくさん入っているだけでお得な気分だった。友人に借りてカセットテープにダビングしたのだと思うが、この時はアルバムタイトル曲の翳りのあるメロディなどがとても好きだったのを覚えている。

 その後Springsteenは「アメリカの権化」のように思えて聞く気にはなれなかったが、ある先輩から「ファーストはよい」と聞かされていた。以来20年余。先日のLazy SundayでFor youがかかっていて、これが実によい曲で、ついにユニオンで800円で購入。

 グレアム・パーカーにも似た前のめりの歌い方、言葉数の多い歌詞、サウスサイド・ジョニーと共通する軽快でありながらも骨太な演奏、サックスとヴォーカルのからみ、すべてがつぼにはまる。

 歌詞を読むと喧噪や怒りややりきれなさに満ちているのに、演奏は爽快ですらある。決して足を止めることなく、町を駆け抜けながら風景を切り取っていくような描写には、様々な人間、様々なモノがあふれかえっている。だがそれらは心に映る風景であり、だからどんなに奔放に思えても、内省的な翳りがアルバムを染めている。

「光で目もくらみ」、「成長するってこと」、「82番通りにこのバスは停るかい?」、「都会で聖者になるのはたいへんだ」ーこれら曲のタイトルも、そして邦題のつけ方も詩的で素敵だ。

 これがデビュー作。「荒削り、地味」という評価も聞かれるが、聞いてみればわかる通り、「ハートがひりひりする」ティーン・ロックとしてこれほど完成度の高いアルバムもないだろう。もちろん決して完成なんかしない、大人にもならない、未熟で愚直なまま、生き続けたい、そんな叫びに満ちたアルバムである。