Iha, James

James Iha, Let It Come Down (1998)

James_Iha.jpg スマッシング・パンプキンズのメンバー、ジェームス・イハのソロアルバムである。バンドの歪んだ音とは対照的な、シンガーソングライターの叙情性をたたえた音楽が奏でられている。甘くてせつなくなる、少し憂いをふくんだ音は、きわめて簡素だ。一応バンドサウンドではあるが、装飾的な加工は一切なく、アルバムジャケットそのままに、純粋な光に包まれた音作りとなっている。

 1曲目のアコースティックギターから始まるイントロがアルバム全体の雰囲気を集約している。また控えめな弦楽器の伴奏もアコースティックな雰囲気を作り出す。唯一、これはニール・カサールだろう、彼の特徴的なエレクトリックギターのワウワウ音がバックに聞こえる。それがきわめて控えめだが、アルバム全体にドリーミィーな世界感を与えている。

 曲のタイトルも至って素直だ。Beauty, Jealousy, Winterなど、シンプルな曲名が並ぶ。そして歌詞も素直な心情を歌っている。Be Strong Nowのサビの部分、And if I come and hold you nowの歌詞のように、もう少しで、彼女に寄り添えるのに、わずかなところでの戸惑い。淡い距離感。あるいはOne and TwoでもIf I hold you tight and never let goと、ここでもifの世界が歌われている。

 さらにLover, loverのサビの部分。

If you say that you love me
And if your heart's one and only
If you live with me for just one day
Until tomorrow

 現実から少しだけ離れた「もし」の世界。それは少し夢のようであり、ぼんやりと照らされて輪郭を失った世界のようだ。その中で、とても親密に二人の世界がスケッチされる。何となく当時のイハのプライベートまで透けてみえるようだ。

 そしてこのアルバムは確かにシンガーソングライターとしての優れたアルバムなのだが、決して単調にならず、意外に深みや広がりを感じるのは、バック・ヴォーカルの多彩さがあるからだろう。よく耳を澄ますと、イハのやや金属的で伸びのあるヴォーカルに寄り添うように、丁寧でシンプルなハーモニーが奏でられている。バンドという形体とはまた違う、友人たちとの交流が、音の力強さを作り出している。

 シンプルで簡素。だがイハのヴォーカルは意外に力強い。低音も響く。自分の作りたい音が、それを十分に理解してくれる友人に支えられたとき、アコースティックを主体にしながらも、十分に広がりのある光に満ちた音楽世界が実現したのだろう。