le_premier_clair_de_laube.jpg 最初のハミングとギターの弦をかする音だけで、今回のアルバムが旅を続けるシンガー・ソングライターの遍歴を描くアルバムであることを印象づける。前作の、スタジオでしっかりと練られた、ユーモアとペーソスがうまく混じり合った演出のなされたアルバムとは異なり、このアルバムは旅のスケッチ、旅の合間に綴った日記のようなアルバムだ。広島、パリ、オレゴン州、ブリュッセル、モントリオールなど、土地の名前が曲のクレジットに挟まれている。ツアーの間の日常的なスケッチと言えばよいだろうか。流れ者テテの記録としての音楽だ。アルバムにも何枚もライブの風景写真が収められている。

 基本的にはシンプルな小品が集められている。どの曲も3分前後で終わる。ドラマティックな展開もない。むしろブルースやフォークの原風景ーアメリカの大地の中で、ギターをもった人間が最初につまびいたに違いない音、そんな簡素な音楽である。

 そのせいか、たとえばMaudit bluesのようなわりと素直な曲が多い。その中で最もテテらしい曲は、やはりアルバムタイトルのLe premier clair de l'aubeだろうか。2分45秒のギター一本の弾き語り。何ていうこともない。アルバムの曲と曲の間にはさまった間奏曲のようでいて、それでいて、テテの微妙な節回しが堪能できるなかなかの佳品だ。Petite chansonはまさに曲のタイトル通り、簡単なメロディラインの曲だが、それでいて、いつものテテのやさしさが感じられる素敵な小曲。Les temps égarésもいい曲だ。いかにもテテらしい乾いた空気のなか、叙情的なメロディが流れてくる。

 いつもどこかの街角でギターを持って歌っているテテの等身大の作品集が今回のアルバムだ。アンプなしでどの曲もできてしまえる肌触りのここちよい音楽がつまっている、最後のBye-Byeもご機嫌な一曲。おそらくライブではこの曲をアンコールにやって、幕が閉じるのだろうか?

付記

 Tétéのこのアルバムは日本盤でも4月11日に発売される。しかも、特別限定盤にしかついていなかったデモ5曲が、日本盤にはボーナストラックでおさめられいる。さらにはvideo-clipもつくとのこと。

 Webサイト(メタカンパニー)によれば、Tété初のアメリカ録音で、プロデューサーはロス・ロボスのメンバーらしい。確かに今まででもっともアメリカっぽい音だ。Tétéはあらためて流浪の詩人だという気がする。どの場所でも柔軟に生きていける自由さと寛容さをもったミュージシャンだ。

live_at_fillmore_west.jpg 年末にめずらしくテレビをつけていたら、いきなりピーター・バラカンがCMに出ていて驚いた。自宅で撮られたInter-FMのためのCMだった。それでバラカン・モーニングを知って、ラジオサーバーを購入し、以来ほぼ全番組を聞いている。

 今日3月25日は、アレサ・フランクリンの誕生日で(自分の父親も今日が誕生日だった・・・)、それでかかったフィルモアのライブがあまりにも素晴らしかったので、思わずレコード屋に直行してしまった。購入したのはレガシーエディション。ソウルにはまったく不勉強な自分だが、このアルバムは万人を受け入れてくれる、度量の広いアルバムであること、そしてだれであっても音楽好きならば、間違いなく感動する素晴らしい音楽が詰まっていることはわかる。

 ということでまだ全然聞き込んでいないのだが、このCD2がいい!Call meからMixed-up Girlの2曲がいい。心をふるわせ、体が思わずスイングする音楽の力を十二分に感じることができる。でもそのあともたたみかけるように素晴らしいパフォーマンスが続く。

 いったい歌とは何だろう。それは素朴な言い方だが、音楽を聞くことで、喜んだり、泣けてきたり、感情の深み、感情が一気に振幅することを体験するのだと思う。普段の生活の中で忘れていた、感動ーちょっとキザにいえば、魂の震えーそれを感じられるのが音楽の素晴らしさだ。アレサのヴォーカルを聞いていると、自分の感情がだんだん深く、繊細になっていく気がする。鉛のようになってしまった感覚が、彼女の声を聞いているうちに、だんだん溶けていって、音楽とひとつになるような気がする。自分がこんなに感情をあらわにすることなんていったいいつ以来だろうか、そんな思いにさせてくれるほど、アレサの声は心に沁み入ってくる。

 人間はこんなにも感動できるのか・・・