研究会1
テーマ:臨床と教育
開講日程:2021年度 春学期 木曜日4時限
担当教員:國枝孝弘
使用言語:日本語 授業形態:ディスカッション
履修者選抜:【受入予定人数】15人
受入予定人数を超えた場合の選考日程・選考方法:3月6日(金)までに担当者にメールで、志望理由書(A41枚程度)を送付。
連絡先:
研究会Webサイト:https://kunieda.sfc.keio.ac.jp/(当サイト)
概要
臨床と聞くと医療分野を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし教育においても臨床はとても重要な営みです。教育における臨床とは、学んでいる人にしっかりと寄り添い、その人自身も普段は意識をしていない内面における声にならない声をしっかりと聞き取ることを意味します。
たとえばある効果的な学習方法があるとしましょう。その方法で95%の人がスキルを身につけられるとしましょう。このようなケースにおいて、臨床における教育は、95%を100%へと精度をあげていく教育ではありません。そうではなく5%のこぼれ落ちるかにみえる学習者のために、彼らに寄り添い、一般化できない学びに言葉を与えていくことが臨床の目的です。
個々の学習者にとってかけがえのない体験を意識化する=個別性を認識することこそ、これからの教育に求められていることだと考えています。もちろん教育は個人的な体験だけにとどまりません。むしろ自分が変わってゆくなかで、自分と他者、自分と異なる世界との関係をどう作り上げていくか、「異なるものとの関わり方」にも必然的に目を向けてゆくことになります。例えば異文化間教育の意義もこの点にあります。
この研究会では「学習者によりそうこと」を臨床と名づけ、人々の学習の道程に付き添って、観察し、そして人々の学びの継続の意義の深さを研究することを目指します。 担当者の教育分野は外国語ですが、それ以外の分野についても研究計画書で判断して、研究会の他の学生と協働しながら進められると判断すれば、選考の対象とします。
主要参考文献
・学びそのものについて
大田尭(2013)「大田堯自撰集成. 1, 生きることは学ぶこと : 教育はアート」藤原書店
佐藤学(1995)「学び その死と再生 」太郎次郎社
フレイレ、パウロ(1979)「被抑圧者の教育学」亜紀書房
・教育臨床学について
田中智志(2002)「他者の喪失から感受へ : 近代の教育装置を超えて」勁草書房
田中智志(2012)「教育臨床学 〈生きる〉を学ぶ」高陵社書店
佐藤郡衛「臨床という視点からの異文化間教育研究の再考 - 「現場生成型」研究を通して -」 (『異文化間教育 35』2012)
・異文化間教育について
フランシス・カルトン「異文化間教育とは何か」 (『異文化間教育とは何か』くろしお出版)
國枝孝弘「大学で多言語を学ぶ意義」(平高史也・木村護郎クリストフ編『多言語主義に向けて』第3章 くろしお出版 2017)
中島智子「異文化間教育研究とインタビュー法」 (『異文化間教育 35』2012)
中野敦「『つながりの実現』を目指した外国語教育の実践 - 駐日韓国文化院世宗学堂『中高生のための韓国語講座2010』 -) (『異文化間教育 35』2012)
・方法論について
横川博一、定藤規弘、吉田晴世編著『外国語運用能力はいかに熟達化するか』(松柏社 2014)(第11章)
竹内理、水本篤編著『外国語教育研究ハンドブック』(松柏社 2014)第IV部 質的研究の基礎と展開
木下康仁『グラウンデッド・セオリー・アプローチー質的実証研究の再生ー』(弘文堂 2012) (第4章 第4節、第5節)
2020年春学期の活動
・4月16日(木)プレセッション第1回
「キーワードを3つ用いて、自己紹介」
自分の研究したいこと、進めていることについてキーワードを3つ選択する。その3つキーワードの意味を説明する。
(例)外国語教育、フィンランド、関わり合い。
外国語教育:日本ではますます英語の重要性が言われ、小学校でも英語教育が科目として始まりました。そのことに興味があります。
フィンランド:フィンランドは教育水準の高さで有名です。では実際にどんな教育が行われているのか興味があります。
関わり合い:言葉を学ぶときには、やり取りがあります。教師が一方的にしゃべるだけじゃつまらない。生徒との関わり合いが大事だと思うのでそれを調べてみたい。
・4月23日(木)プレセッション第2回
1.「自己紹介に用いたキーワード3つをもとにして研究していること/したいことを書く」(22日までにLINEノートにアップ)
2.「自分のグループではなかった人から一人を選び、その人の書いたものを読み、当日は、その感想を言う」。
第1回(4月30日) ソーシャル・マジョリティ研究と私の研究
目的:ソーシャル・マジョリティの観点から、自分の研究を考えてみる。
ディスカッション・ポイント
p. 4. 「どこまでが本人の特性であり、どこからが本人を取り巻く周囲の問題なのか」→具体的に浮かぶ事例はあるか?
p. 5.「コミュニケーション障害」という語をどう考えればよいか?
p. 6. タイトルの「個人の問題と社会の問題を分けて考える」とはどういう意味を指しているのか?
p. 8. 5章において、「当事者」と「社会」はどのような関係にあるか?
p.10. 「ソーシャル・マジョリティ」研究の意義はどこに認められるか?
p.12. 研究会の進め方の特徴はどのような点に認められるか?
p.13. 8章を読んだ上で、自分の研究にこの研究方法は有効か?
- 自分の研究したいことは、当事者側の問題としてとらえるのか?社会側(制度、共同体)の問題として考えるのか?その当事者と社会のバランスをどうとらえると、問題をより明るみに出したり、人々の注意を向けたり、よい提言ができるか?
- さらに進むと、問題当事者の声を聞き取ることが始まる。編み出された「言葉」「表現」を拾い上げていくことが始まる。(p. 59)
第2回(5月7日)権野、長岡:卒論進捗発表
第3回(5月14日)卒論を読み、研究スタイルを学ぶ。
1) タイトルからどのような内容が想定できるか?
2) 研究動機からこの論文の目的ははっきりと把握できるか?
3) 第1章で先行研究と本研究との関係は明確に示されているか?
4) 第2章のリサーチクエスチョンは明確か?
5) (全体を読んだ後で)第2章の研究方法は、リサーチクエスチョンに答える上で有効か?
6) 第3章のテーマ、概念化、そのための分析は的確か?
7) 第3章の分析対象の選択は妥当か?
8) 第4章で示される本論文の結論は何か?
9) 論文全体への感想
第4回(5月21日)卒論構想発表
江頭、長谷川
第5回(5月28日)卒論構想発表
富田
第6回(6月4日)研究発表+輪読
宇田川
輪読「外国語学習における相互文化教育を通したリフレクションと批判精神の育成について」
第7回(6月11日)研究発表
岩崎、中山
第8回(6月18日)
斎藤、室川
第9回(6月25日)
西川研究会との合同研究会
第10回(7月2日)
卒論最終発表
第11回(7月9日)
各自の研究進捗発表
第12回(7月16日)
各自の研究進捗発表
過去の研究成果
卒業制作
2023年度
鍵谷佳奈「外国にルーツのある子どもたちは学校生活に何を求めるのか ~芦屋国際中等教育学校の卒業生のインタビュー分析を中心に~ 」
根本将之介「」
2022年度
小見山珠美「大学生家庭教師とその生徒との間に生まれる『固有の関係性』についての考察 - 当事者へのインタビュー分析を中心に -」
寺本顕英 「私立大学に通う精神疾患を抱える学生の大学生活の『苦しみ』の実相と『大学の支援機能』の関係性 ~当事者の声から支援機能のあり方をみつめなおす~」
戸﨑 史悠 「公民科公共の討議における啓蒙」
西村操太郎ウィリアム「公教育における美術の授業の位置付け - 中等教育に焦点を当てて- 」
三浦奨悟「盛岡一高における『望ましい』進学先とその合理性 ~『地方公立トップ進学校』という属性に注目して~」
室川大祐「大学生から振り返る進路指導のあり方~私立中高一貫校に目を向けて~」
2021年度
岩崎聖「新任教員の語りを通して教職課程と向き合うー教員養成の課題とその解決方法ー」
齊藤弾「帰国子女の居場所の消失による影響~帰国後後遺症と影響~」
冨田将斗「⻘年期の学生寮生活が形成する「関係性のなかでの自立」の要素と要因」
中山萌子「内面的、パーソナルな視点からみるセミリンガル・バイリンガルの言葉の意味の重要性と問題」
2020年度
江頭美希「場面緘黙症経験者と「安全圏」 〜当事者が当時を振り返り語ること〜」
權野玉貴「異文化間を移動した子女の自己受容とその後のライフプランの接続性 ~ライフストーリー調査を通して~」
長岡れいな「青年期のきょうだい児の軽度発達障害児の兄弟との役割と関係性〜同じ屋根の下で過ごす同年代の兄弟姉
妹だから起こること、できること〜」
長谷川実咲「あらゆる子どもたちの個性を伸ばす教育 ~発達障害児の事例を中心に~」
2019年度
大倉百理子「外国にルーツを持つ児童たちのアイデンティティを尊重した教育現場作りの提言〜日本での初等教育を経験した当事者たちのパーソナルストーリーを通じて〜」
高橋茉鈴「グループワークを通じた生徒の学びと教師のねらいの比較 〜高等学校における授業での実践から〜」
高橋梨奈「日本に暮らす外国にルーツを持つ子どもたちを育む ̶「母」としての想いを語るー」
中嶋美憂「日本人女性改宗ムスリムの日本における信仰と実践」
野口美里「外国語学習環境における教員と生徒の関係性について 〜フィンランドと日本の授業分析〜」
家洞李沙「学校から社会への移行期における自己探求〜休学する大学生との相互行為的なインタビューを足がかりに〜」
2018年度
岩井優香「日本の中等教育でいかに英語嫌いの生徒を減らすか? ー中高6年間の経験の語りから実現可能な方策を考察するー」
小野紗和子「異文化コミュニケーションにおける『笑い』の重要性についての考察 ー留学経験者へのインタビュー分析を中心にー」
菅原千夏「自己を語り、人生に意味をもたせる意義 〜移動を通じた個々のアイデンティティの複層化を意味づける〜」
田中絹子「一億総『自己責任』時代における東大生が感じるエリートの社会的責任 解釈的現象学的分析(IPA)によるエリートの合理性の理解」
田中満帆子「青年期におけるアイデンティティ形成過程の本質をさぐる 〜ふたごの語りを通して〜」
土井南音「海外体験をもつ学生の言語学習への価値付け、その後の変容に関する考察」
吉田聖斗「過疎地域型二次医療圏における居住型介護施設利用者の自己抑制プロセス」
2017年度
折井伸之輔「日本で生活するイタリア人の異文化接触の経験 - 解釈的現象学的分析(IPA)による長期的異文化接触の意味付け」小林由佳理「高校における第二外国語学習と異文化理解能力の関係についての考察」
2016年度
松浦麻衣子「慶應義塾大学SFC所属のスペイン語初学者の学習目的意識と継続意識に関する質的調査」
山下耕志郎「生成教育がもたらすもの−hippo family clubでの実践例−」
2014年度
藤谷悠「タンデム学習活動の実践・分析・考察 他者との恊働によって開拓される自己と言葉の学び」
2013年度
大迫茉奈「フランス語初学者の為の自律的な学習環境作り~単語学習の事例から~」
木村理香「フランス語学習者のための読解補助・コラム教材制作から考えるフランス語教育」
2012年度
古橋薫「リズム・グループ、イントネーションから学ぶフランス語」
2010年度
伊藤景子「仏語学習者向け ネイティブスピーカーの速度に耳を慣らすためのリスニング教材」
修士論文
2023年度
中山萌子「日本の公立小学校の外国語教育での多文化共生の可能性 -広島県の小学校教員のインタビューを通して -」
2022年度
李家慧「企業における言語多様性マネジメントの研究 -日・中・英3言語話者社員の職場における言語実践 -」
2020年度
折井伸之輔「対話型鑑賞における学びの相互作用の可能性ー外国にルーツをもつ児童グループにおける実践とピア・ラーニングの視点からの考察ー」
2018年度
松木瑶子「外国語学習における学習者の異文化間能力の育成 : フランス語の教科書とオンライン教材の比較、および授業実践の参与観察を通して」
2017年度
藤谷悠「日仏国際結婚家族の元に生まれた子どものライフストーリー調査:「ひきこもり」視点からの複言語・複文化性の捉え直しと「移動」概念の再定義」
2011年度
村田幸治「映像と音声に特化した外国語学習教材の開発と環境の構築」
博士論文
2023年度
藤谷悠「退隠と表象─ひきこもり経験者間対話の分析・考察、そして『ひきこもり学』の創造へ─」