Daryl Hall & John Oates, Abandoned Luncheonette (1973)

abandoned_uncheonette.jpg 今から20年も前。トッド・ラングレンの再発の頃だったか、その話を友人にしたら「こんなアルバムもあるよ」と紹介してくれ、CDまで貸してくれたのが、Hall&Oatesの「War Babies」だった。そのままCDは返さずじまいで今も手元にある。このアルバムは、彼らのサードにあたり、ソウルな風味にロック色を入れたいと思った本人たちが、トッドにプロデュースを頼んで制作された。オーバー・プロデュースで有名なトッドだが、このアルバムもかなり激しいアレンジになっている。

 それに対してこのセカンドは、まだ本人たちの手探り感というか、もがき感が残っていて、甘酸っぱさをかきたてている。特に裏ジャケの二人の表情はやるせなさが漂っている。その後の哀愁を帯びてはいてもパンチの効いたロック調とは異なる、エルトン・ジョンに似た青春の青さを感じさせる内省的な音楽だ。1曲目のハーモニーの繊細さ、高音の美しさがこのアルバムの瑞々しさを伝えてくれる。アコースティックソウルの肌触りとしては、たとえば5曲目の、弾き語りからヴォーカルが重なるI'm just a kidの冒頭、そしてサビのハモリなどに十分感じられる。

 ちなみにこのアルバムにはBernard Purdieなど一流ミュージシャンが参加しているが、確かにアレンジが素晴らしい。2曲目のフックの効いたドラム(これはPurdieではないが)などセンスの良さが光る。

 ここには彼らの初期のヒット曲She's Goneが入っている。10ccのようなしっとりとした曲調から、親しみやすいサビに入り、そしてサックスの音色へと、とても聞きやすい構成だ。AORやディスコサウンドへ行く手前の、というかもうすぐそこにひかえているような音作りだが、たとえばはずかしい音色のギターの音にもならずあくまでアコースティック、機械音の打ち込みのようにならず、あくまでも肌ざわりを大切にした、手作りの音楽だ。

 名盤はこんなところに眠っている。