もはやおぼろげな記憶しか残っていないのだが、ユーミンが、自分の曲を校歌にした瀬戸内海の小学校を訪ねる番組を見たことがあった。小学生たちと交流をしたユーミンの目には涙があふれていた。自分の曲を大切に歌ってくれる子どもたちと、その子どもたちが暮らす海の風景に囲まれて、自然のなかで自分の歌が歌い継がれてゆくことの喜びゆえの涙だったのではないだろうか。
校歌になったのは「瞳を閉じて」。「遠いところへいった友だちに 潮騒の音がもう一度届くように 今 海に流そう」。今は一緒にいる小学生たちも大きくなればやがて島を離れていくだろう。しかしどれだけ遠くに離れても、この育った海の潮騒のことをいつまでも覚えていてくれるように、そしてどれだけ遠くに離れていても、ずっと友だちのままだということを伝えるために、ガラスのびんを海に流す。自分の書いた詞が、子どもたちの心のよりどころになっていく。それを実感してユーミンは泣いたのではなかったか。
荒井由実時代の7枚のシングル、計14曲を集めたこのCDは、実に贅沢なCDだ。A面、B面関係なく、どの曲もおもわず口ずさめる親しみさと、おしゃれでありつつも「翳り」をふと感じる陰影に富んでいる。デビューシングルの「返事はいらない」のピアノ、ギターのイントロから「この手紙が届くころには」という歌いだしのメロディに驚く。ロックというにはあまりに素朴で、フォークというにはあまりに洗練されている。
そして自分がはじめて聞いたユーミンの曲「あの日に帰りたい」。その後松任谷由実という名前を見つけて、あれっと思ったことを覚えているので、おそらく荒井由実をオン・タイムで聞いていたのだろう。もっともハイファイセットのほうがなじみがあったのだが。
ところでこのCDの曲解説はだれが書いたがクレジットがないのだが、簡素な説明でほぼ曲の魅力が言い尽くされている。たとえば先ほどの「瞳を閉じて」については、「海をテーマにした数々の作品を創っているユーミンだが、すがすがしさという点ではこの曲が秀でている」。うん、その通り。
そしてシングルを集めているということで、バージョン違いが何曲もありマニアの心を満たしてくれるCDでもある。
Tweet