Ronnie Lane's Slim Chance, One for the Road (1976)

one_for_the_road.jpg このアルバムを聴くたびに、音楽の素晴らしさだけではなく、Ronnie Laneという人間の生き方そのものを深く考えてしまう。誠実に生きることと、音楽ビジネスの中で生きることとは相反することが明らかになり、多くのミュージシャンがアメリカに旅立ちショービジネスに身を染め、あるいはコンサートを産業として成功させ巨富を得ていく中で、Ronnieはただ、自分の好きな音楽を、生な音をそのまま演奏したかっただけのように思える。好きな音楽を演奏する。ただそれだけ。だから生活そのものが音楽になる。今生活している場所で、音楽を楽しむ。それがRonnieが行ったパッシング・ショウと名づけられたツアーだ。金には全くならなくても、最も音楽が身近に感じられるひとときだ。

 プレミアのついたチケットに大枚をはたいて、それで豆粒のような、あるいはスクリーンに映った姿を楽しむような、消費が生み出す喜びではなくて、観客のすぐ目の前で演奏し、楽しむ観客の姿を見ながら、自分も楽しむような、そんな雰囲気だ。

 愚直なまでの音楽への姿勢は、社会的な成功に安住する人間に恥ずかしさを感じさせないではいられない。うまく社会で立ち回って疲れて帰ってきたときに、Ronnie Laneを聞くとかろうじて正気を保つことができる。

 Ronnieのアルバムはどれをとっても素朴な曲ばかりだ。親しみやすく、またアイリッシュトラッドの楽器、フィドルやハープの音色が美しい。音の肌触りが実にいいのだ。2曲目、23nd streetなど本当に心をうつ。とてもシンプルなメロディが繰り返されるだけなのだが、Ronnieの声にあわせて、他のメンバーが合唱するところが、とても熱く、バンドはこうでなくてはと実感する。どう考えてもFacesにはなかった雰囲気だろう。

 そしてこのアルバムを聴き続けて20年近くになるけれど、このアルバムの印象はずっと変わらない。ふとした瞬間にOne for the roadの一節が浮かび上がってきたりする。心に確信をいだいて歌われるこの声にはありったけの真実がつまっている。