Smiths (The)

hatful_of_hollow.jpg イギリス、キャメロン首相が好きなミュージシャンは「スミス」だと公言したところ、ジョニー・マーが「お前はスミスを聞くな」とtwitterで叫んだとのこと。それで久しぶりにLPを取り出したら、なつかしい輸入盤のにおいがした。

 自分が始めて聞いたスミスはこのシングルや、ジョン・ピールセッションなどがおさめられたお得なベスト盤だった。なにせ16曲も入っている。のっけからクオリティの高い曲が並ぶ。Willam, It Was Really Nothing, What Diffrence Does It Make ? この「そんなことどうだっていいのさ」という、若者たちの絶望の、身を切るようなせつなさが初期のスミスにはある。少年のもつ投げやりな態度と傷つきやすい感受性のアンバランスさ、今を持ちこたえることのできない弱さがスミスの魅力だ。

 Handsome DevilにはLet me get my hands on your mammary glandsなんていう歌詞があるが、この情けなさが心にささってしまう。シングルを集めたにもかかわらず、この曲からHand In Gloveへの流れが実に自然だ。ジョニー・マーのギターのリフの素晴らしさが光る一曲。メロディひとつで最後まで突っ走ってしまうところがこの時代らしい。A面最後はStill Ill。この曲もギターの美しさが光る。そしてAsk me and I'll dieなんていう歌詞は、ナイーブすぎるのだが、青春の特権だろうか。

 そういえばスミスのデビューはRough Tradeである。初期のスリッツやキャバレー・ヴォルテール、ポップ・ミュージックなどのオルタナ色の強いミュージシャンとは全く異なる、曲そのもののもつ繊細さで勝負するバンドがこのレーベルから出てきたことに驚いた。ドラム、ベース、ギターどれをとってもアコースティック感があり、テクニックとは全く異なる次元の愚直さを突き通した音だ。

 B面3曲目You've Got Everything Nowもジョニー・マーのギターのリフが光る。パンクの余波もようやく過ぎて、もう一度メロディを見つめ直して音楽を作ろうとする時代の雰囲気を最もよく伝える曲だ。最後のモリッシーの裏声が決して過剰には思えないのはひとえに曲のノリがよいからだろう。そして当時もっとも好きだったReel Around The Fountain。

 イギリスが年老いてゆく時代に、スミスは「青春」にこだわって曲を出し続けた。ロックに若さを求めるかぎり、スミスのアルバムは決して廃盤になることはないだろう。