開始早々涙してしまった。その後も終わるまで涙、涙。なにせ全編にわたって愛があふれているのだ。家族への愛、スタッフへの愛、ファンへの愛、人間への愛。本当に愛に満ちた人物は、映画の中でバックミュージシャンが証言していたように「フレンドリーで謙虚」なのだ。決して怒ることもない。他者を傷つけることを最も恐れる繊細な魂。そのような魂だからこそ、最終的には環境をまもろうというメッセージを真剣に考えるようになってしまったのだろうか。
この映画を観ていると、マイケルの音楽がジャンルの垣根を越えていることを実感する。一音、一音へのこだわり、オリジナルを再現しようとする完璧かつストイックな精神、とにかく観客のためを考える、慈悲といってもいいサービス精神。どれをとっても超一流である。
もちろんマイケルも現役バリバリのミュージシャン。体の切れは指の先にいたるまで精密にリズムを刻んでいるし、高音の美しさもまったくJackson 5のころと変わらない。それから生のバンドのクオリティもすごい。聞いていて匹敵するものとしてはザッパが浮かんでしまいました。ギター=スティーヴ・ヴァイだし・・・マイケルもザッパもすべてを掌握する指揮者のようだし・・・
人間は完璧に近づけば近づくほど、犠牲にするものも増えてゆく。睡眠も食事も、そうした人間の日常の営みからはるかに遠いところへと行き着かざるをえない。それが不幸なのだ。そしてその不幸な人間が、他人へは無限の幸福を注いでくれるという逆説。そのような逆説に生きるアーティストはもう生まれてこないのかもしれない。
修行僧にも似た孤高のアーティストの姿がこの映画には刻まれている。そして無限の音楽への愛も。