TTB_Cov_5x5-HI.jpg これまでの2枚のアルバムとはかなり趣の異なるアルバムである。RevelatorやMade Up Mindを聞いたときには、例えばMidnight in Harlemのようなアルバムを代表するような名曲や、The Stormのようなデレクの荒れ狂ったギターが堪能できる曲など、これぞ真打ちと呼べる作品があった。しかし今回のアルバムにはそのような圧倒的に飛び抜けた曲はない。

 その代わりどの曲を聴いてもひしひしと伝わってくるのは、お互いを理解しつくした演奏集団が繰り広げる充実した演奏だ。内ジャケットに写っているのは総勢11人。人数の多さにも関わらず、その一人一人のパーソナリティが伝わってくるようなアルバムだ。誰か一人だけにスポットライトがあたっているのではない。誰か一人が欠ければ到底成立しない絶妙なハーモニーとバランスが作り上げる、しなやかだけれども強靭なバネがどの曲をも貫いている。

 その結果、このアルバムには完成された曲を楽しむ以上に、メンバー一人一人の卓越した演奏によって曲が生まれてゆく、その過程に立ち会っているかのような楽しみにあふれている。メンバーが間合いをとりながら、音楽を生んでゆく生成の時間こそグルーヴと呼びたい。

 「オレがオレが」という私心がないぶんだけ、リラックスした印象を多くの曲から受ける。そこからさらにジャム感覚の自由さが加わる。そのためか、これまで時にやや力みがちに聞こえていたテデスキのヴォーカルも今回は、いい感じに力が抜けている。4曲目のRight On Timeは、今までにはない、ユーモラスとペーソスをたたえたジャグバンドを思わせるような曲である。街から街へと流浪しながら日銭をかせぐ旅芸人一座のような風情だ。この曲ではマイク・マティソンが最初ヴォーカルをとり、その後テデスキにバトンタッチして、男女の仲直りを演じているが、二人のセリフまわしが面白い。

 これまでの2枚がバンドとしての可能性をどこまで追及できるかという多少緊張がみなぎる雰囲気だったのに対して、今回のアルバムでは、その試みを経たことによる、バンドへの十分な信頼を各自が持ってパフォーマンスをしていることが印象的だ。例えばMidnight~と8曲目のHear Meを聞き比べてみるとその印象はより強まるだろう。どちらもノスタルジックな落ち着きのある曲だが、Hear Meはアコースティックギターの生音を聞かせ、ドラムの刻みはやや控えめ。バックコーラスはよりやさしくテデスキによりそっている。歌詞の内容もパーソナルな恋の歌である。Midnightの楽曲の完成度からみれば、小さくまとまっているようでありながら、大地に根を張ったようなゆるぎない自信を伝えてくるのはむしろHear Meではないだろうか。

 マイク・マティソンがリードヴォーカルをとる曲もある。これなどは、時に応じて自在に役割を交代してゆくバンドのしなやかさを強く示している事例だろう。だれがリーダーなのでもなく、それぞれが共同体の一員として、自由に音楽をかなでる。そののびやかさがこのアルバムの特徴だ。どの曲にも派手さはない。しかしこれ見よがしの「ウケる」曲を作る必要はさらさらないだろう。ここには共同で自分たちがよいと思うものだけを作り上げる職人魂が十分につまっている。その中に私たち聞き手も誘われて、いつのまにか手拍子を鳴らす。曲のクレジットで手拍子がAllと書いてあるのは、単なるデータではない。それはみなが手をたたき、ともにあることの歓びの伝え合うための記録なのだ。このアルバムはテデスキトラックスの「歓喜の歌」だ。

DRM_cover_email-1024x1024.jpg ジャケットの中心には、Dave Rawlingsと、その音楽パートナーGillian Welchが写っている。ソロ名義になってはいるが、全曲とも二人の共作である。またGillian Welch名義のソロアルバムでも、ジャケットには二人のイラストが描かれ、Daveが全曲に参加している。どちらがメインヴォーカルをとっているかの違いだけで、デュオの作品と言える。実際アルバムのクレジットはback vocalではなく、単にvocalと記されている。

 音の作りも変わらない。主に2人のヴォーカルと、ギター、ベース、マンドリン、フィドル、マンドリンそしてドラムという最小限の構成である。ただ今回のアルバムでは3曲にストリングスが入っている。

 使われている楽器からすれば、カントリー、ブルーグラスと分類したくなるが、少なくとも単純に陽気な曲はない。またノスタルジックなところはあるものの、懐古的な雰囲気はみじんもなくはなく、たとえゆったりしたテンポでも、張りつめた緊張感が、アコースティックギターの弦の金属の響きから伝わってくる。

 彼らの魅力は、ゆっくりしたテンポのなかで、音がひとつひとつきわだちながら、やがてひとつの旋律をなめらかに奏でていくところにある。

 たとえば1曲目The Weekendの2分30秒過ぎのギターによる間奏。早弾きすることは決してないのだが、弦が跳ねながらもメロディアスな旋律を奏でてゆく。やや哀切を帯びたそのメロディは、だからといって湿っぽくはならず、一音一音をはっきりと聞かせる。

 2曲目Short Haired Woman Bluesも、アコースティック・ギターの前奏から始まる。この曲は、彼らの曲調には珍しく、かなりストリングスが導入されている。

 3曲目は11分近くもあるThe Trip。ここでの歌は朗読詩に近く、寄る辺ない旅が語られる。モノクロの映画の画面で、人々が南へ向う列車に乗り込む姿、男の擦り切れたブーツ、そして年老いた黒人男性の表情、それらがすべて風景の中に溶け込み、つづられてゆく。

 4曲目はドラムもベースもなく、ギターの弾き語りで歌われる。エコーのかけ方、そしてミシシッピーへの言及が、ボブ・ディランのMississippiを少し想起させる。ただタイトルがBodysnatchers(墓堀泥棒)というように、こちらの曲はずっとディープではあるが...

 5曲目と6曲目は、このアルバムのなかではスタンダードなカントリーナンバーで、ほっとできる。そしてラストのPilgrimはボブ・ディランのOne of Us Must Know(sooner or later)を彷彿とさせる、少しワイルドな歌い方。そして、ラスト近くKeep rollin'のフレーズはザ・バンドとヴァン・モリソンのかけあいをも思わせる。

 7曲とアルバムにしてはちょっと物足りない曲数だが、どの曲もGillian Welchのアルバムと同様、実に丁寧に作られている。ギターの一音一音に気を配り、絶妙な間を取り、ヴォーカルのハーモニーもどちらかが主張することはなく、まさに「調和」している。職人というにふさわしいできばえのアルバムだ。