ピアノの音が流れる。しばらくしてドラム、ベースが加わり、ぼくとつとしたヴォーカルが始まる。そのバックにはゴスペル風のコーラス。Singin'Only you can help meが祈りのことばとして伝えられる。そして間奏にスライド・ギターとストリングス。控えめであり荘厳であり、ロックであり、ソウルであり、こんなアレンジの曲があったのかと驚きながら、海にたゆたうように曲に誘われる。
二曲目はピアノとハーモニカが、If You're lonelyというタイトル通りの音色を奏でる。たとえばポール・ウィリアムを思い出させるようなせつなさだ。
ジャケットからは、おだやかでのんびりした私的な空間で奏でられる音楽という、SSWらしい雰囲気が伝わってくる。しかし、このアルバムはそれだけにとどまらない、スケールの大きさがあると思う。聞いていて静謐な気持ちにうたれるのは、叙情さだけではなく、宗教的な荘厳さがあるからだ。最後の曲Christ, it's mighty cold outsideはピアノにのせてせつせつと祈りのことばを歌う。もしKazの声が少しでも低かったら、もはやポピュラー音楽として聞き通すことは難しかっただろう。また聞く人をおそらく限ってしまったに違いない。しかし彼のうれいを帯びた声が、このアルバムを普遍性をたずさえたロックの良質盤にしてくれている。
このアルバムが90年代後半に「名盤探検隊」の一枚として人気を集めた理由がわかる。孤独で憂愁に満ちたヴォーカル。その感情を高めるストリングスの物悲しさ。しかしそれをサポートするアレンジと楽器はあくまでも力強いのだ。ソウルフルであり、かつファンキーな奥行き。その希有なバランスがこのアルバムの魅力なのだ。
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