ベースメントテープスの音源と同じ67年に収録されたこのアルバムは、音数も最小限で、曲も非常にシンプルである。しかし、きわめて豊かな深みをもったアルバムだと聞くたびに感じる。どの曲もほとんど2,3分で、4分を越える曲が1曲、5分を越える曲が1曲である。そんな小品が集められたこのアルバムだが、力を抑えている分だけメロディの美しさが際立つ。アルバムと同タイトルのJohn Wesley Hardingは、一聴してすぐに口ずさめてしまう親しみやすいメロディだ。激しいライブテイクのほうが印象に強い「見張塔からずっと」のオリジナルテイクは、各楽器の生の音が際立つきわめて簡素な曲だ。それでももちろんメロディの切迫感は、どれほど音がアコースティックでもひしひしと伝わってくる(ちなみにこの曲のベースラインは裸のラリーズの「何が欲しいときかれたら、紙切れだと答えよう〜」と似ている)。
そして同じメロディが繰り返される小品も多い。次の「フランキー・リーとジュダス・プリーストのバラッド」は、ほとんど単純なリフが繰り返されるだけだ。二人の登場人物を巡る寓話につけられた伴奏のようである。ちなみにこの曲だけが5分35秒と1曲だけ長い。
一番好きな曲はI pity the poor immigrantだ。3拍子の切ない美しいメロディの曲である。とても単純なメロディなのに激しく心を揺さぶられる。怒りや、激しい感情の起伏がなくとも、いやそうしたセンチメンタルさがないぶんだけ、ディランの声からは憐れみと悲惨がこぼれおちてくる。歌詞が難解なぶんだけ、明確なメッセージ性を感じることは難しい。だが、それゆえに、たとえば「笑いに満たされた口」、「彼の血でつくられた街」など、きわめて象徴性の高い比喩的形象によって、移民のあわれな物語が紡がれる。わずか4分で、一人の人生を語り、かつその世界を私たちに届けてしまうディランとは、ほんとうに優れた詩人なのだ。
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