Van Morrison, Avalon Sunset (1989)

avalon_sunset.jpg Van Morrisonのアルバムにはアストラル・ウィークス、ムーンダンスといった初期の傑作群がある。これは誰もまねしようがないし、Van自身再演することなど不可能なほどオリジナリティにあふれたアルバムである。白人によるソウルの咀嚼。かつロックというジャンルがあらゆる他のジャンルを咀嚼しつくすエネルギーをたずさえたジャンルであることを証明してくれるアルバムだ。またライブにもIt's too late to stop nowのようなソウルフルなアルバムがある。しかし、Van Morrisonのアルバムは70年代だけではない。80年のInto The Musicなどずいぶん聞きやすいが、魂の充実を感じさせる好盤である。そして80年代終わりにだされたこのAvalon Sunsetも時代の制約をはるかに超えたアルバムに仕上がっている。

 初期のアルバムはLaura Nyroと同じくこちらに緊張を迫るが、この時期のアルバムはすこし肩の力を抜いて、楽しみながら聴けるのがよい。どの曲もオーソドックスな感じがするが、じっくり練られているし、多少「お決まり」であってもVan Morrisonならば許してしまおうという気になる。

 とくに4曲目。Have I told tou lately that I love youの甘さはいったい何だろう。叙情に押し流されてしまいそうな曲ではあるが、Van Morrisonの落ち着いた懐の深い歌い方に、素直に感動するのだ。Take away my sadnessという甘ったるい歌詞も一緒に口ずさみたくなる。そんな静かな魅力に溢れた曲が並ぶ。ストリングスもまったく大げさには聞こえない。

 7曲目のWhen will I ever learn to live in Godもよてもよい曲だ。しかしなぜ神を歌うのだろうか。それはゴスペルのような神と強い関係をもつ音楽との共通性ゆえだろうか。たしかに曲の最後女性コーラスとサビを繰り返すところなど、神へのゴスペル讃歌と言えなくもない。

 それ以外にも美しい曲が収められている。ストレートにR&B色の強い曲を聴くよりも、実はこのAvalon Sunsetのような、控えめであっても、じっくり歌を聴かせてくれるVan Morrisonが好きだ。80年代のうすっぺらな音楽が席巻するなかで、ここまで歌を大切にしたアルバムを出していたことに驚く。

 ようやく40枚ほどレヴューを書いてきて80年代のレコードを初めて紹介することができました。でもこのアルバムはもっとも80年代らしくないアルバムだけれど・・・