Ayers, Kevin

the_confessions_of_dr_dream_and_other_stories.jpg ケヴィン・エアーズの曲には、「ブルース」とつくタイトルの曲が多い。この「夢博士の告白とその他の物語」にも2曲おさめられている。一聴すると、どの曲もブルースっぽいところはないのだが、エアーズが「ブルース」とつける理由は、おそらく、ロック調のめりはりではなくて、ルーズさが曲の魅力だいうことなのだろうか。とにかくルーズという言葉がぴったりな人だ。ソフトマシーンにいながら、さっさと脱退してしまう。髪の毛もぼさぼさで、かなりだらしないヒッピーの雰囲気である。カンタベリー系のミュージシャンには結構ポップ志向の強い人がいるが(たとえばホークウィンドのロバート・カルバート。名盤多し)、エアーズほど、能天気なポップアルバムを作る人もいないだろう。

 しかしこのアルバムのポップさは、かなりシュールなポップさである。複雑な転調を繰り返すが、けっしてプログレのように壮大な展開にはならない、でもやはり直尺ものの曲。メランコリーな色調で心情にうったえるというよりも、こちらの頭の活動を鈍らせるような夢幻的なバラード。そんな一筋縄ではいかない曲がつまっている。

 そして何よりもエアーズの魅力は、その低くて、やや鼻につまった声だろう。アルバム最後のTwo Goes into Fourは、その低い声で紡がれる優しい子守唄である。リンゴ・スターのGood Nightと並ぶ最高のおやすみソングだ。

 この後、エアーズのアルバムは、どんどん平板なポップへと流れていく。しかし、決してルーズさは失っていないし、ルーズな人間ならではの優しさをつねに持っているミュージシャンである。下北沢のディスクユニオンで、あまりきちんとチューニングしているとは思えないギターで数曲を歌い、その後サイン会までしてくれたエアーズは、ずっとほほえんでいた。九段会館のコンサートでは、すでに客席に明かりがつき、終了のアナウンスが流れている中で、何度もアンコールをしてくれた。アンプも最後には故障してしまったが、そんなことは関係なく、楽しそうにギターをひいていた。そんなケヴィン・エアーズを私はこよなく愛している。人から「聴いてごらん」と貸してもらったレコードで、もっとも深い印象を抱いたのがこのThe Confessions of Dr. Dream and Other Storiesである。