Camproux, Charles

 シャルル・カンプルーは、1908年南仏生まれで、南仏オック語、オック語文学などを幅広く研究した大学教授である。『オクシタン文学史』などの著作もある。訳者は島岡茂、鳥居正文。
 Que sais-je ? 基本的な著作であるが、その基本的な知識を全て網羅するには、当然ながら、圧倒的に幅広い知識と、その知識を裏打ちする信念に近い文化への奥深い理解を必要とする。碩学という言葉にまさにふさわしい研究者である。序論はロマン語の定義。フランス語において、Romanzは、romanの起源となる、「ラテン語のテキストを翻訳、もしくは手直しした、フランス語やオック語による卑俗なテキスト」を当初は意味した。
 第1章は「ロマン語研究の歴史的発展」である。トゥルバドゥールの言語、ダンテの『俗語論』(俗語を文法的に考察することの意義)、コイネーとしてのオック語、語源研究としての出発、ジアン・ド・ノートルダムによる修辞学的関心から、19世紀のロマン言語学への歴史的変遷が扱われる。19世紀ロマン言語学とは、文献学、言語学的研究である。レヌアール、パリス、シュライヒャーなどの言語論、おして19世紀末の新文法学派への反動として、クルティウス、ブレアルの研究、明日凝りなどの方言学の研究が紹介される。20世紀のロマン言語学としては、フォスラーの観念論学派、グラモン、ギョームの心理学的関心、言語地理学、ロマン言語学における構造主義が紹介される。
 第2章は「ロマン語の起源」である。まず最初に、古典ラテン語から俗ラテン語への移行ではなく、文字ラテン語と話されるラテン語があったことが指摘される。後者は当然ながら<非>均質なものである。次に言語層の問題が扱われる。5世紀においては、「もはや俗ラテン語を持ち出すことができない」(p.60.)と指摘する。また「ロマニアの言語的分化は、おそらく最後にはこのような司教の権限に従う人間集団の境界へと到達した」(p.61.)との指摘もある。そしてロマン語の存在が意識されたのが、8世紀末から9世紀始めに位置づけられる。
 第3章は「ロマン諸語」である。ここではロマン諸語の分類が扱われている。イタリア文学言語についてはベンボ(Bembo)の『俗用語文論』の言及もある(p.83.)。それに続いて類型論として、音、形態・統辞、語彙についての紹介がある。
 第4章は「拡張」である。現在のロマニアについての紹介がなされている。