一時期アメリカ、イリノイ州のインターネットラジオを聞いていたときに耳に入ってきた。バンド自体はオレゴン州ポートランドの出身である。ポートランドといえば、何よりもエリオット・スミスがすぐに浮かぶが、このDoloreanもエリオット・スミスへのトリビュートアルバムでThe Biggest Lieをカバーしている。
奏でる楽器がアコースティック主体だけに、ややもするとカントリー音楽っぽい雰囲気もあるが、自然の風や土の臭いはしない。むしろ静物画のような、一枚のスケッチ画のような印象を与える演奏である。何よりも全体のアンサンブルのよさが、絵画について話すときの均斉や構成と言ったことばを喚起させるのだろう。
弦楽器が主体であるとはいえ、このバンドの芯にあるのは、カントリーでもないし、フォークミュージックでもない。ヨ・ラ・テンゴがフォーク・ミュージックとは呼びにくいように。確かに生音が大切にされてはいるが、彼らの音楽の特徴はそれらの音の「反響」にあるように思う。ロックバンドが室内楽をしているかのように、彼らの音はこだまにつつまれているようなおぼろげなところがある。
たとえば2曲目Put You To Sleepでは、ペダル・スティールとオートハープが演奏されているが、それぞれの音にわずかなエコーがかけられ、音像が広がってゆく印象を受ける。こうした音響処理がこのバンドの特徴的な音を作っていて、そこがカントリーやフォークといったジャンルとは異なる点だろう。細かい点だが、8曲目のラストは、アコースティックギターに、エコー処理された口笛が重ねられ、さらにシンセサイザーの音が重なる。こうした生の音と人工的な音が溶け合うところに、音像の特色がある。
ヴォーカルにはエコーはかけられず、素朴な声が聞ける。だがバックヴォーカルと重なってハーモニーが生まれると、声が幾重にも結び合わされ、静かな響きを伝えてくる。こうした繊細なヴォーカルがアルバム全体に静謐な印象を与えている。
デビュー以来、15年で4枚程度しかアルバムを出しておらず、本当に寡作だが、それでも丁寧な音作りをしているからこそ、どの作品もきっと長生きするに違いない。これで人生をやっていけるのだろうかと余計な心配をしたくなるが、たとえ多くの人が聞くわけではなくても、彼らの音楽は、出会った人の心の中にゆっくりと沈んでいき、ふとしたときに、口をついて再び生まれてくるような永遠の美しさをたずさえている。