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let_it_bleed.jpg バンドの音だが、スタジオミュージシャンすべて含めてのバンドの音になっている。それによってアルバムの雰囲気も、一曲一曲も、決まったジャンルにはおさまりきらない、スケールの大きさを獲得している。血統のない雑種としての音楽だ。そしてそこには、音楽自体を創造してゆこうとする高い志がある。

 バンドは、それぞれが強い個性を発揮しながらも、決してバラバラにならずひとつのエネルギーを作ってゆくから面白い。ブライアン・ジョーンズが抜け、ミック・テイラーが加入するという過渡期に制作されたこのアルバムには、メンバー交代の不安定さなど感じられない。それどころか、アメリカのミュージシャンが入って、様々なバックボーンを持った音が混じりあい、そこから強い緊張感をもった音楽が生まれているのだ。

 1曲目からMary Claytonの力強いヴォーカルにからみつくようにミックのハープが響き、ニッキー・ホプキンスのピアノが跳ねるなか、曲がどんどん進行してゆく。2曲目のロバート・ジョンソンのカバー曲に参加しているのはRy Cooder。埃が舞い上がるような寂寥感の演出が実にうまい。

 ここにおさめられているのは、ジャンルを無視したポピュラリティあふれる曲ばかりだ。3曲目はフィードルから始まる、ブリティッシュロックと南部アメリカンロックの混合が見事なCountry Honk。4曲目はディープなスワンプロックのコード進行から始まり、ぐいぐいと疾走してゆくスピード感見事な一曲。最後のドラムのシンバルがひたすらたたかれまくられるのがかっこいいです。そしてA面最後のLet it bleedは、クレジットをみると、このスライドはキースが弾いている。Ladies&GentelmensのDVDではミック・テイラーの職人技の微動だにしない姿勢から生まれるスライドギターの音が、実にバンドの要となっていたが、この曲のスライドはテイラーに負けていない...

 B面1曲目は、ふたたびねちっこいブルース。最後のYou can't always get what you wantは「地の塩」に続くアカペラ路線を拡大した曲。アル・クーパーのホルンに、アコースティックギター、そしてヴォーカルが入り、一気に曲が盛り上がっていく。アル・クーパーはピアノ、オルガンも担当し、コーラスの編成はジャック・ニッチェ。これこそストーンズの真骨頂ではないだろうか。どこまでも音を厚く塗り重ねて、猥雑とさえいえるような、いろんな音の混ざり具合こそストーンズの音楽を聞く醍醐味だと思う。ロックの雑種としての魅力に強くひきよせられるのだ。ロックだと思う。

the_confessions_of_dr_dream_and_other_stories.jpg ケヴィン・エアーズの曲には、「ブルース」とつくタイトルの曲が多い。この「夢博士の告白とその他の物語」にも2曲おさめられている。一聴すると、どの曲もブルースっぽいところはないのだが、エアーズが「ブルース」とつける理由は、おそらく、ロック調のめりはりではなくて、ルーズさが曲の魅力だいうことなのだろうか。とにかくルーズという言葉がぴったりな人だ。ソフトマシーンにいながら、さっさと脱退してしまう。髪の毛もぼさぼさで、かなりだらしないヒッピーの雰囲気である。カンタベリー系のミュージシャンには結構ポップ志向の強い人がいるが(たとえばホークウィンドのロバート・カルバート。名盤多し)、エアーズほど、能天気なポップアルバムを作る人もいないだろう。

 しかしこのアルバムのポップさは、かなりシュールなポップさである。複雑な転調を繰り返すが、けっしてプログレのように壮大な展開にはならない、でもやはり直尺ものの曲。メランコリーな色調で心情にうったえるというよりも、こちらの頭の活動を鈍らせるような夢幻的なバラード。そんな一筋縄ではいかない曲がつまっている。

 そして何よりもエアーズの魅力は、その低くて、やや鼻につまった声だろう。アルバム最後のTwo Goes into Fourは、その低い声で紡がれる優しい子守唄である。リンゴ・スターのGood Nightと並ぶ最高のおやすみソングだ。

 この後、エアーズのアルバムは、どんどん平板なポップへと流れていく。しかし、決してルーズさは失っていないし、ルーズな人間ならではの優しさをつねに持っているミュージシャンである。下北沢のディスクユニオンで、あまりきちんとチューニングしているとは思えないギターで数曲を歌い、その後サイン会までしてくれたエアーズは、ずっとほほえんでいた。九段会館のコンサートでは、すでに客席に明かりがつき、終了のアナウンスが流れている中で、何度もアンコールをしてくれた。アンプも最後には故障してしまったが、そんなことは関係なく、楽しそうにギターをひいていた。そんなケヴィン・エアーズを私はこよなく愛している。人から「聴いてごらん」と貸してもらったレコードで、もっとも深い印象を抱いたのがこのThe Confessions of Dr. Dream and Other Storiesである。