ここで問題にしているのは音が人間にもたらす感覚についてである。本書では1-2「音声の象徴性」、1-3「音と意味」、1-4「類音類義」で特にこの問題が扱われている。例えば記号としての言語観を相対化するための擬音語、擬態語の例などである。また、音がもたらす印象について、[i]の音が小ささを表すといった例が引かれている。こうした音のもたらす感覚の普遍性についての論証は、「充分」と言える地点まで至ることはないであろう。しかしこうした音象徴の例が音、音楽、楽器にまつわる文化的事象へと結び付けられるのが本書の特徴であるし、文化人類学者の視点からみた言語というものが浮かび上がってくるのである。
川田順造『声』(筑摩書房)