一音一音、丁寧に織り込まれたかのような手作り感のする作品である。実際、アルバム・カバーからして、職人が手仕事で版を作って、凹凸印刷した素晴らしいもの。アルバムタイトルも「馬鍬と収穫」。地道な労働によってこそもたらされる収穫物。それがこのアルバムに収められた10曲だ。
演奏しているのは2人。男女のヴォーカルと、それぞれのギター、バンジョー、ハーモニカ、そして手拍子、足拍子だけである。そんなわずかな音だけなのに、ふくよかな世界が描かれる。
1曲目Scarlet Townは、少しブリティッシュフォークロック風味のする憂いを帯びた弾き語りから始まり、Gillianの力強い歌が加わる。そしてその声に寄りそうかのようにDavidの声が加わる。2曲目は、Take me and love me if you want meと相手への問いかけから始まる、心に孤独の暗い影をかかえた女の子の話。3曲目The Way It Goesは最初から2人で歌われる、声の重なりがきわめて美しい曲。
4曲目でようやく曲調が多少アップテンポになるが、5曲目Tennesseeでは元のテンポに。Now let me go, my honey oh... Back to Tennesseeのサビの部分がいかにももの悲しい。
そして6曲目Down Along The Dixie Lineはさらにゆっくりとメロディが流れる。3分過ぎたあたりのギターの間奏部分が特に美しい。繊細で壊れやすいマイナーな雰囲気を感じさせながら、徐々に音階を上げながらつまびかれるメロディラインがきわめて印象的だ。深い確信を持って歌われるヴォーカルと、それを支える繊細なギターが自然に調和している完成度の高い曲。
7曲目Six White Horsesはハーモニカとバンジョーで始まる、シンプルだけれど、アメリカのルーツミュージックの憧憬を感じられる佳曲。同じくバンジョーの素朴な音だけに乗せて歌われるのが8曲目Hard Times。この曲もシンプルで、そして力強い。
Singing hard times
Ain't gonna ruin my mind, brother
Hard times
Ain't gonna ruin my mind
Hard times
Ain't gonna ruin
My mind
No more
と歌われる部分は、彼ら音楽観自体をよく表す一節だろう。そう、心を荒廃から救ってくれる慈しみに満ちた音楽。
下敷きにはブルーグラス、フォーク、カントリーなどさまざまなジャンルが散りばめられているのだろう。しかし古めかしさはまったく感じられない。熟達した職人が作ったクラフトがいつまでも愛され、使い続けられるように、ここに収められている曲も職人の手によって作られているからこそ、時代の風潮には決して流されない強さを湛えている。