Number Girl

kiroku_series_1.jpg CD4枚+DVD1枚。ディスク・ユニオンの中古で2000円ちょっとで購入。DVDはオースティンでのライブだが、これは必見。どの曲もメンバーがはねている。とくにギターとベース。若いバンドの演奏って実にいいと感じさせてくれる。とにかくすばらしい。

 Disc2は前半が新宿JAMでのライブ。あの狭い空間で濃密な音楽が流れたかと思うと、感慨深い。一曲目Omoideはもったいぶったイントロが実にかっこよく、ドラムのロールからギターが入ってきてのっけから最高にスリリングなのだが、このテイクはドラムのバランスが大きいせいか、かなりストレートな曲に出来上がっている。解散直前にくらべれば曲のもつレンジがせまいけれども、ライブバンドとして卓越した技量をみせつける爽快さがこのテイクにはある。次の「大あたりの季節」もノイジーではあるが、いわゆるロックバンドの定式を抜け出しているわけではない。ライブバンドのノリだけで押し通してしまう若さがあるといおうか。いったいこのバンドはどれほどのスピードで円熟へと達してしまったのだろうか。

 このdisc2を聞くと、演奏力だけでは歴史にならないことを強く感じる。このライブだけでは、Number Girlが日本のロック史に名を刻むバンドになったかどうかわからない。演奏だけではなく、いわゆるオーラのようなもの、唯一無二なものが生まれて初めて、歴史の中でこのバンドを考えることができる。解散時の圧倒的な存在感、何かが取り憑いたような存在感ではない。たとえば8曲目「日常を生きる少女」など、このテイクでは単調なタテノリで、性急で突っ込みがちだ。しかし「シブヤ」では、それだけではおさまらない幅がある。ヴォーカルが遠いといおうか、それでも曲として深まりがあるのだ。空気をつかんでひきのばしたような、それでいてはりつめた音の世界が広がってゆく。

 Disc4は、裸のラリーズのように、ギターのエコーと、それがノイズとなって渦巻くところから曲が始まる。最高にかっこいい始まり方だ。この1曲目の「日常に生きる少女」から2曲目の「Omoide」へとつながるところも実にいい。Omoideは渋谷のライブ盤、そして札幌ラストコンサートのテイクの鬼気迫る「いってしまった」感にくらべると、こちらのテイクは、たたみかける「まともな」演奏だが、音の圧力はひけをとらない。

 このdisc4のベストテイクはZazenbeats kemonostyle。もともとヴォーカルは叫びではなくうなりのようなものだが、この曲では吠えまくっている。サイケデリックなギターによる演奏が延々と続き、そこにひたすらヴォーカルがかぶってくるところ、この10分のノイズの渦巻きが圧巻だ。そのあとのeitht beaterもやたら攻撃的だ。もうこれ吠えまくりでほとんど歌になっていない・・・実にエフェクターの効き具合がたまらない。

 で、disc1,4はまだ聞く時間がない・・・

shibuya_rock_transformed.jpg Sonic YouthやDinosaur Jr.などの名前が浮かんでも、そうした音楽の影響関係を語ることはほとんど虚しい。Number Girlだけの固有の音楽は、その一瞬の凝縮度から生まれてくる。ライブにおいてこの一瞬だけの音、もう二度と出せないような音の塊が、彼らの音楽を唯一無二のものにする。

 それぞれのパートの音が激しくぶつかりあう。高度な演奏力に裏打ちされた緻密な計算と、金属音の凄まじい破壊の衝動が一曲の中で混じり合う。鍛えられたミュージシャンの破壊の衝動は、決して音楽そのものを破壊はしない。根底のところで曲として成立しているところが並じゃないのだ。

 好きなところはいっぱいあって、突然ドラムとベースがやんで、ギターのリフがえんえんと続くところ、ドラムのロールがギターの爆音と重なりあうところなど。聞かせどころを心得ている。「我起立一個人」の歪みきったギターの音など、アンプに耳をくっつけたくなるほどよい音だ。そこから「Super Young」のロック定番のリフへと入っていくところなど、実にうまい。

 ロックは、うまく歌わなくても曲として成立するジャンルだ。こんな叫び声で歌っても音楽として成立するところがロックだ。

 何度も成立ということばを使ってしまうが、まさに音楽として成立するかしないかのぎりぎりのところで、曲として成り立たっているところが素晴らしい。あるいは「日常を生きる少女」なんて、けっこうスカスカなところがあるんだけど、それがサビにきて一気に空間が音で埋め尽くされるところなど、音楽に立ち会っている気にさせてくれる。

 もちろん「透明少女」や「OMOIDE IN MY HEAD」のようななんだか青春ロックの定番のようなメロディラインの曲もある。でもまたこれがいい。まさに今を生きられないような前のめりの性急さが限りない魅力だ。「透明少女」のドラムのロールがいい。「OMOIDE IN MY HEAD」のドラムにギターがかさなって、一気に全員の音が轟音となって、さらにギターのリフが静寂に響いて、またふたたびバンドの音に戻ってくるのがいい。この演奏力、構成力、メロディのキャッチーさと、マイナーな感じのヴォーカル。どれをとってもこれほどまでに見事に破壊されているのに、緊密な構成をもっている曲が演奏できるバンドは本当に希有だ。虚空に響くギターのエレキ音をずっと聞いていたい。

 ずっと前に解散していても、その会場に若い自分がいたと錯覚させてくれるライブアルバムだ。