Corneille

parce_quon_vient_de_loin.jpg 自分があまり今のソウルを聞けないのは、どれほど才能があると思っても、音がきわめて企画化されてしまっていることが多いからだ。美しい声、恵まれた声量をもって、メロディアスな歌を歌っても、バックの打ち込みや、おきまりのアレンジに、ミュージシャンの個性がかき消されてしまっている(日本で最近よく聴く歌姫たちもそうだろう。一人一人がきわめて才能の高い歌い手であるにもかかわらず、売れ筋の歌しか歌っていない。もっと魂をこめた曲を歌わせてあげられないものだろうか)。

 このCorneilleも本編の方は、ちょっと類型化された音作りで、彼にどんなバックボーンがあろうと、その内面にまで入っていきにくい。ただ、彼には歌うべき詩がある。そしてその詩がきりきりする程の痛みとともに伝わってくるのは、Disc2のアコースティックバージョンの方だ。一聴して胸を激しく揺さぶられた。あまりの切なさに電車の中でも泣きそうになって、必死にiPodを握りしめた。

 アコースティックであるだけ、歌詞の青い、甘ったるいところが、切実に胸にせまってくる。この青さを許してしまうのは、この歌手があまりにも壊れやすい弱さを感じさせるからだろうか。

 たとえばDisc2の1曲目Sans rancune(恨みっこなしさ)のサビの部分。

Sans rancune
La première étoile que je déchroche,
je te la donne
La première place dans mon rêve,
je te la réserve
 
恨みっこなしさ
僕がつかんで降ろす最初の星
それを君にあげるから
僕の夢のとっておきの場所
それは君にとっておくから

 こうしたみえすいた言い訳は、ナイーブさの裏返しだ。

Je suis désolé
mais il faudra que je prenne ma chance.
 
悪いけど
でも自分の運をためさないと

 Corneilleは惜しげもなく自分について歌う。

On dit : Corneille est froid
Il n'a rien dans le coeur que sa maudite carrière
On me reproche, entre autre
De n'avoir la tête qu'à mes poches et pas assez aux autres
 
人は言う「コルネイユは冷たいやつだ」と
あいつのこころには、自分の忌まわしい仕事のことしかない
人は僕をせめる、とくに
自分のことしか頭になく、他人のことはあんまり考えないと

 こうしたフラジャイルな内面をもちながら、Corneilleは言う。

Le but de ma démarche est plus grand que ça
 
僕がこうしていることの目的は、みなが考えていることより大きいんだ

 そして、モントリオール、パリ、ルワンダとそのために自分が渡っていくんだと歌う。

 ナイーブにも自分の内面をさらけ出してしまうこの若さ、そこにとても惹かれるのだ。

 そしてアコースティックバージョンは、無駄な装飾がない分だけ、曲それぞれのヴァラティの豊かさが感じられる。ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ大陸をわたってきた人物らしい、様々なバックボーンを感じさせる曲々だ。歌い方はソウルフルなところもあれば、北アフリカっぽいリフレインがあったり、シャンソンの叙情性を感じたり、フォークのたたずまいがあったりと、彼の豊かな音楽経験が上品にそれぞれの曲に溶け込んでいる。

 コルネイユにはどうしてもそのルワンダでの体験が、影を落としている。

C'est la mémoire qui m'empêche de vivre
dont souvent je me sers afin de survirre
 
私が生きてゆくのを邪魔するのはあの記憶だ
そして私は生き続けるためにこの記憶に頼るのだ

 このアンビヴァレントな歌詞が、Corneilleの傷つきやすさをとてもうまく表現しているように思える。強いメッセージと、それを直接には表現せず、歌という美しさにのせるCorneilleのアーティストとしての意識が、このアルバムをクオリティの高い1枚にしている。