ハナレグミ

ontime.jpg「オブラートにつつんだ」声と言おうか。ハナレグミの魅力はその少しだけハスキーで、少しだけ鼻にぬけるような、ノスタルジックな気分にさせる声だ。肩肘をはらず、ジャケットのようなギターの弾き語りを中心につくったアルバムは、とてもパーソナルで、大上段にかまえたところがない。ロックがもっていた批判精神のようなものはすっかり抜け落ちている。その代わりここで描かれるのは、日常へのオマージュだ。CMにも使われた「家族の風景」は、まさにそうしたパーソナルで、普段の生活の風景を描いている。ハイライトとウイスキー。

 アレンジもきわめてひかえめで、楽器の木のぬくもりがするような音作りだ。レゲエやスカのリズムはあまりにもあっけらかんとしすぎであるが、それは愛嬌ということで受け流しておこう。そうしたちょっとはずかしいアプローチは3枚目の『帰ってから歌いたくなってもいいようにと思ったのだ』ではすっかり消えてしまい、アルバムの完成度としてはこちらのほうが高いだろう。ハナレグミ節が十分満喫できて、ゆとりさえ感じられるし、「催促嬢」のようなふざけた曲も十分楽しめる。それに比べれば『音タイム』はあまりにも素直すぎる曲が多い。でもそれでも歌いたいことがいっぱいあったのだろう。そんな音楽への愛着と衝動が感じられる若いアルバムだ。

 そしてなによりもこのアルバムには前述の「家族の風景」が収められている。この一曲がはいっているだけで「買い」だ。(ただ、やはり聞き比べると『帰ってから〜』はやっぱり充実している。くるりの「男の子と女の子」、ラブソング「僕は君じゃないから」、単純な弾き語りだけどメロディが印象に残る「かえる」、「おまえはポールか」とちゃちゃを入れたくなる「ハナレイ ハマベイ」など。う〜ん、やっぱり3枚目を推します)。