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Squeeze, Frank (1989)

frank.jpg 当時はロックしか聞いてなかった自分にとって、スクイーズはひねくれたブリティッシュ・ニュー・ウェーブバンドということで気に入っていた。しかし今聞き返してみると、このバンドは、了見のせまかった自分にとっても十分聞けるソウルテイストのロックだったのだと思う。たとえばポール・ウェラーのソウルへの傾倒はあまりに素直すぎて聞けなかった。それに対してスクイーズはもっと洗練されていて、ルーツを気にしなくても聞けるバンドだった。

 また当時はXTCと並んだあまのじゃくバンドという印象だったが、アンディ・パートリッジのようなインテリ然としたそれゆえ攻撃的な(もう少しいくと人の悪い)アプローチは感じられない。むしろいろんな実験的なことをやるんだけど、どれも結局は同じ味になってしまって、でもまあそれでもいいか、といった枠を破れないというか枠のくっきりしたバンドだ。そんな投げやりなユーモアはたとえば5曲目の雰囲気によく表れている。

 89年のFrankはなかでも最もストレートなポップアルバムだと思う。ベスト・テイクはLove Circlesだ。とっても爽やかで、でもどこかせつない。20年も前に聞いたのに、今だに胸がしめつけられるのは、曲がフォーエバー・ヤングなのか、自分がそうなのか・・・ギターのリフがこの頃のニュー・ウェーブのいかにもの音で青臭いのだけど、曲の展開は完璧、とくにサビの前の少しマイナーなメロディがいい。青春の代表的な一曲。

 もちろん他の曲もいい。冒頭のイントロ明けのIf it's Loveは一回聞いただけですぐに口ずさめる優れたポップソングであり、そうしたところでビートルズに近いと言われるのかもしれない。この曲はヴォーカルがほどよくパンチがあって、曲のノリのよさとあっている。どの曲も親しみやすいのに、それでもスクイーズのオリジナリティを十二分に感じることができる。そのあたりの個性と普遍性を兼ね備えているところが、このバンドの卓越したところなんだろう。

 数年前にでたクリス・ディフォードの弾き語りライブも感動ものだった。かつてのスクイーズの曲を弾き語りで演奏しているのだが、それだけによけい曲のよさが際立つ。その意味でもイギリス・ニューウェーブの文脈を超えて、ポップ・ロックとしての代表バンドとしてスクイーズをあげることができる。

avalon_sunset.jpg Van Morrisonのアルバムにはアストラル・ウィークス、ムーンダンスといった初期の傑作群がある。これは誰もまねしようがないし、Van自身再演することなど不可能なほどオリジナリティにあふれたアルバムである。白人によるソウルの咀嚼。かつロックというジャンルがあらゆる他のジャンルを咀嚼しつくすエネルギーをたずさえたジャンルであることを証明してくれるアルバムだ。またライブにもIt's too late to stop nowのようなソウルフルなアルバムがある。しかし、Van Morrisonのアルバムは70年代だけではない。80年のInto The Musicなどずいぶん聞きやすいが、魂の充実を感じさせる好盤である。そして80年代終わりにだされたこのAvalon Sunsetも時代の制約をはるかに超えたアルバムに仕上がっている。

 初期のアルバムはLaura Nyroと同じくこちらに緊張を迫るが、この時期のアルバムはすこし肩の力を抜いて、楽しみながら聴けるのがよい。どの曲もオーソドックスな感じがするが、じっくり練られているし、多少「お決まり」であってもVan Morrisonならば許してしまおうという気になる。

 とくに4曲目。Have I told tou lately that I love youの甘さはいったい何だろう。叙情に押し流されてしまいそうな曲ではあるが、Van Morrisonの落ち着いた懐の深い歌い方に、素直に感動するのだ。Take away my sadnessという甘ったるい歌詞も一緒に口ずさみたくなる。そんな静かな魅力に溢れた曲が並ぶ。ストリングスもまったく大げさには聞こえない。

 7曲目のWhen will I ever learn to live in Godもよてもよい曲だ。しかしなぜ神を歌うのだろうか。それはゴスペルのような神と強い関係をもつ音楽との共通性ゆえだろうか。たしかに曲の最後女性コーラスとサビを繰り返すところなど、神へのゴスペル讃歌と言えなくもない。

 それ以外にも美しい曲が収められている。ストレートにR&B色の強い曲を聴くよりも、実はこのAvalon Sunsetのような、控えめであっても、じっくり歌を聴かせてくれるVan Morrisonが好きだ。80年代のうすっぺらな音楽が席巻するなかで、ここまで歌を大切にしたアルバムを出していたことに驚く。

 ようやく40枚ほどレヴューを書いてきて80年代のレコードを初めて紹介することができました。でもこのアルバムはもっとも80年代らしくないアルバムだけれど・・・