Rodriguez, Coming From Reality (1971)

coming_from_reality.jpg アメリカの音楽サイトWolfgang's VaultからのメールでRodriguezがアメリカで今も元気に歌っていることを知った。とはいえプロというわけではないらしい。それを知ったのは、実に驚きなのだが、Rodriguezを追ったドキュメンタリー映画がアメリカで公開され、彼のことがさまざまなホームページで語られていたからである。映画のタイトルはSearching For Sugar Man。Sugar Manは、1970年に発表されたファーストアルバムの1曲目。全く売れないまま、その後ほとんど消息不明になっていたRodriguezの40年も前のアルバムが、南アフリカでは、抵抗の象徴として大きな反響をよび、それを知った制作者が、アメリカでSugar ManことRodriguezを探すという映画らしい('Searching for Sugar Man' Spotlights the Musician Rodriguez - NYTimes.com)。

 Rodriguezを初めて聴いたのは、2009年の仏Téléramaのpodcast音楽番組Hors pistesだった。発売当時も話題にならず消えてしまったミュージシャンの2枚のアルバムが、どういうわけかCDで再発になった。番組ではセカンド・アルバムからIt started Out So Niceという曲がかかっていた。かすかに枯れた声とアコースティックギターによる弾き語りの美しい曲。そして控えめにストリングスがアレンジされている。すぐにAmazon.frで2枚のアルバムを注文した。

 ファーストのほうが若干サイケデリックっぽいだろうか。セカンドはぐっと質素で、飾り気のない優しい曲が多い。ポエトリー・リーディングのような曲もある。基本はアコースティックギターと控えめなストリングス。そして朴訥とした声。ジョン・ケールにも似たロマンティックな曲調だが、決して歌い込んだりはしない。あくまでも控えめに語るだけだ。Silver Wordsで歌われている「ああ、あなたに会って、ぼくがどんなに変わったか、わかってもらえたら」というひかえめな希望がこのアルバムを象徴しているように思う。決して声高ではない、ただいつかあなたに聴いてもらえたなら、そんな控えめな希望が、何十年たって、実際に本当になった。

 とりわけ印象的なのはCauseという曲。いきなり「クリスマスの2週間前にオレは仕事を失った」と歌い出される。不運と自虐的ユーモアという意味では、こちらの曲のほうがSugar Manより、Rodriguezにふさわしいかもしれない。ヒットや反響という意味では、きわめて不遇のキャリアだったかもしれない。しかしWolfgang's Vaultのヴィデオで歌っているつい最近のRodriguezの姿は、本当に楽しそうなのだ。ギターを肩からかけ、かるく体をゆすりながら、歌う姿は本当に素敵だ。決してヒットはしないだろう。でも良い音楽は少しずつでもずっと聴き継がれてゆく。いつか彼の3枚目のアルバムを聴きたい。