Frank Zappa, Bongo Fury (1975)

bongo_fury.jpg 数々のライブ音源のオーヴァーダビングと徹底的な切り貼り編集によって完璧なアルバムを作り出すザッパだが、このアルバムのもとになっているのは1975年5月の二日間のコンサートである。

 その前年の74年にはApostropheとRoxy & Elsewhere, 75年に入ってからはOne Size Fits All。それに続いてだされたのがこのBongo Furyである。この時期は実験的な音楽というよりもバンドアンサンブルを前面に出し、ロック色の強い演奏を繰り広げていた時期である。それは緻密な計算による予定調和の世界と、超絶テクニックと音圧によって生まれるインプロヴィゼーションの予定不調和の世界がいっしょくたになった、ザッパだけが到達した唯一無二の音楽だ。

 さらにザッパのジャケの中でもおそらく最高の1枚であるここにうつっているのがキャプテン・ビーフハート。3曲にヴォーカルとして参加しているのだが、A面の冒頭変拍子のイントロに続いて、いきなりしぼりだされるだみ声はほとんど雑音のようである(ちなみに手元にある当時の日本盤につけられた対訳には「対訳不可能」とあり)。それにたたみかけるようにテリー・ボッジオのドラムを始めとしたやたら音数の多い演奏が入ってくる。

 そのまんまのタイトルA面2曲目のCarolina Hard-Core Ecstasyでは、ザッパのハードなギタープレイが堪能できる。また5曲目の「200歳のウェイトレス」ではありえない詩の内容にあわせて、本格的なブルースロックギターが弾かれている。そしてアルバムタイトルはA面3曲目の歌詞から。しかしこの歌詞も対訳によれば「さしたる意味なし」とのことである。

 このアルバムで何といってもすばらしいのがB面最後のMuffin Manである。このタイトルもほとんど意味がないのだが、そのナンセンスきわまりなく、猥雑ななかにありながら、演奏はどこまでもストイックである。メンバー紹介に続く、ザッパのギタープレイはまさに究極の「泣き」である。指さばきもすごいが、これだけのテンションの中で、冷静にメロディラインが保たれているところが、まさに「永遠に続く奇蹟」だ。